Artist Statement
アーティスト・ステートメント
中尾武の作品は、しばしば見過ごされる小さな現象や人の行為に着目し、それらがどのように痕跡として蓄積され、変容し、やがて新たな行為へとつながっていくのかを辿る。 行為は痕跡となり、痕跡は再び行為となる。その循環のなかに生じる変化や関係性を捉えることが、制作の基底にある。
センサー、ウェブアプリケーション、ブロックチェーン、アルゴリズム、コンピュテーショナルデザインなどの技術を用い、動き、持続時間、相互作用、所有と利用、価値、最適化といった、直接目に見えないプロセスや関係性を、記録、変換、可視化、具現化を通して知覚可能なものとして立ち現れさせる。 そこでは、個々の出来事は完結したものとして扱われるのではなく、別の時間、別の人、別の行為へと受け渡されていく契機として捉えられる。
その制作の中心にあるのは、現在を固定された一瞬ではなく、過去から蓄積された痕跡と、未来に開かれた行為や相互作用の可能性とが交錯する暫定的な状態として捉える視点である。 現在とは、過去の結果がただ残される場所でも、未来へ向かう単なる通過点でもない。受け継がれた痕跡が新たな意味を帯び、次の行為へと転じうる場として存在する。 過去から持ち越されたものと、まだ実現していない未来の可能性とを同時に知覚するとき、現在の意味や見え方はいかに変化するのか。その問いが作品を通底している。
ここでテクノロジーは、現象を測定し、記録し、最適化するための単なる道具ではない。見過ごされてきた出来事に形を与え、それを人から人へ、時間を越えて循環させるための枠組みである。 記録されたものは保存されるだけではなく、変換され、可視化され、別の主体によって受け取られることで、さらなる行為を生み出していく。
行為から痕跡へ、痕跡から次の行為へ。その連鎖のなかで、出来事の意味がどのように変わり、現在がどのように更新されていくのかを探ることが、制作の核となっている。